堀江貴文氏がプロデュースしたベーカリーチェーン「小麦の奴隷」は、2020年に北海道大樹町からスタートし、わずか数年で全国124店舗まで拡大しました。地方発のフランチャイズモデルとして注目を集め、「地方でも勝てるビジネス」として話題になったブランドです。
しかし2025年現在、店舗数は約半数の56店にまで減少。2ヶ月で撤退する店舗も出るなど、急速な閉店ラッシュが続いています。地方ビジネスの理想と現実のギャップが、ここには如実に表れています。
地方展開の魅力と落とし穴
「小麦の奴隷」が掲げた戦略は、地方の空き店舗を活用し、低コストで出店できるフランチャイズモデルでした。地方創生とビジネスを両立させる理想的な形として、多くの加盟希望者が集まりました。
しかし、以下のような構造的な課題が浮き彫りになりました。
- 人口密度の低さによる集客の限界 都市部と比べて通行量が少なく、リピーターの獲得が難しい。SNSで話題になっても、物理的に来店できる層が限られる。
- 価格帯と地域購買力のミスマッチ 「ザックザクカレーパン」などの商品は話題性が高い一方で、価格が高めに設定されており、地方の生活者にとっては日常使いしづらい。
- フランチャイズ運営の難しさ 飲食業未経験者の参入が多く、オペレーションや人材確保に苦戦。本部のサポートが追いつかず、短期撤退に至るケースも。
- 高級食パンブームの終焉 2020年頃にピークを迎えた高級食パン市場は飽和状態にあり、差別化が難しくなっている。
店舗仲介の現場から見える「地方出店」の現実
店舗仲介の立場から見ると、「小麦の奴隷」の事例は地方出店における重要な示唆を与えてくれます。
- 立地選定は都市部以上に慎重に 地方では「駅近」よりも「幹線道路沿い」「駐車場付き」「生活導線上」が重要。人通りよりも車通りを重視すべきケースが多い。
- 商圏分析は地元密着で行うべき 人口統計だけでなく、地域の消費傾向や競合状況、イベント動線などを細かく把握する必要がある。
- 物件の初期費用だけで判断しない 地方物件は家賃が安く見えるが、集客コストや人件費、販促費がかさむ可能性がある。トータルコストでの判断が重要。
- ブランド力に頼りすぎない 話題性やインフルエンサーの影響力は初動には有効だが、継続的な来店動機にはならない。地域との関係構築が不可欠。
地方ビジネスは「夢」ではなく「設計」が必要
「地方でもいける」という言葉は、希望を与える一方で、現実を見誤る危険性も孕んでいます。地方には地方の戦い方があり、都市部の成功モデルをそのまま持ち込むだけでは通用しません。
店舗仲介の現場では、地方出店を検討する際に「物件の安さ」だけでなく、「商圏の持続力」「地域との親和性」「運営体制の柔軟性」など、多角的な視点が求められます。